小学生の認知的方略のパターンに応じた支援方法
斉藤千愛・山本獎
岩手大学大学院教育学研究科研究年報 第一巻 (2017) 25-38
問題と目的
悲観主義者たちは楽観主義者に比べ不適応的であるとされてきたが,Norem(1986)は課題場面で悲観的に考えることで高いパフォーマンスを発揮する人々がいることを見出し,これを防衛的悲観主義者と名付けた。この防衛的悲観主義は認知的方略の一つであり,過去のパフォーマンスに対するポジティブな認知を持ちつつも,将来に対する期待が低い認知的方略であるとされる。この対となるのが方略的楽観主義であり,過去のパフォーマンスに対してポジティブな認知を持ち,将来に対する期待も高い方略である。また適応的なこれらの方略以外にも,将来のパフォーマンスに対してネガティブな認知を持ち,将来に対する期待も低い真の悲観主義や過去のパフォーマンスに対するネガティブな認知を持ちつつも将来に対する期待が高い非現実的楽観主義などが存在する。
これまで防衛的悲観主義に関する研究は多くなされてきており,外山(2012)は達成目標によって防衛的悲観主義のタイプ化を試みており,習得接近目標が低く,取得回避目標が高い防衛的悲観主義者と,逆に習得接近目標が高く,習得回避目標が低い防衛的悲観主義者とでは学習達成が異なった。そのため,防衛的悲観主義者の中にも高いパフォーマンスにつながるものと,そうでないものが存在することを明らかにした。
こうした研究の多くは大学生が対象であり,小学生を対象としたものは見られない。そのため,本研究ではそれぞれの認知的方略パターンに対して有効な教師による支援方法を明らかにするとともに,認知的方略の視点から児童支援の手がかりを検討することを目的とする。
方法
対象者 公立小学校の3-6年生218名。
尺度 外山(2015)の認知的方略尺度を元に修正した12項目。
対象者 担任教師8名
担任する児童に対してどのような認知的方略を用いるのか5件法で尋ねた。これは妥当性の確認のためであった。
また,教師による支援方法に関して菊池・山本(2015)の『担任教師の働きかけ分析カテゴリー』による8項目を用いた。
結果と考察
小学生のための認知的方略尺度は「計画」「過去の認知」「未来への不安」の3因子にまとめられた。信頼性は確認されたものの,教師の認知との相関は弱く,妥当性は確認できなかった。
有効な支援方法
・防衛的悲観主義
計画性の高い場合 「指示・判断・許可」「確認・言い換え・反復」「受容・励まし」
・方略的楽観主義
計画性の高い場合 「発問・問いかけ」「提案・意見・感想」以外の全て
・真の悲観主義
計画性の高い場合 「指示・判断・許可」「確認・言い換え・反復」「受容・励まし」「婉曲的な叱り」
・非現実的楽観主義
「命令・禁止・否定」
計画性の高い場合 「指示・判断・許可」「受容・はげまし」「確認・言い換え・反復」「婉曲的な叱り」
課題
教師の認識との相関が弱く,児童が自身の認知をどう評価しているかといった点に左右されるため,妥当性について疑問が残る点。